【整理番号】
整理番号は願書の必須項目です。

施行規則には、整理番号については、使える文字種(大文字のローマ字、アラビア数字若しくは「-」又はそれらの組み合わせ)と10文字の制限しか規定されていません。そのほかのことは、出願人(または代理人)に任されています。基本的に特許庁は出願番号で出願を管理するので、整理番号の欄に何を書こうが特許庁の関与するところではなく、自由に使ってよいわけです。通常、代理人(特許事務所)は代理人(特許事務所)が決めた整理番号を記載しますが、出願人の便宜のため(または出願人の積極的な要望に応じて)出願人が決めた整理番号を記載することも多いです。

出願番号が付いていない段階では、特許庁は整理番号で出願を特定します。電子出願なら出願すれば出願番号がすぐに通知されますが、やむをえず紙で出願し出願番号がすぐに分からない段階で何か手続する場合には、出願日と整理番号を特定します。手続をした者と出願日と整理番号で、どの出願か特許庁でも特定されます。出願と同時に審査請求する場合にも、出願前は当然ながら出願番号が分からないので、出願日と整理番号を出願審査請求書に記載しておけば、どの出願か特許庁でも特定されます(普通は、出願番号が分かってから出願審査請求書を提出しますけれど)。整理番号を使って手続をすると、特許庁から「出願番号特定通知書」という知らせが届きます。これは、特許庁でどの出願か特定できたという知らせです。

願書のこの欄を間違えたからといっても、間違いに特許庁が気付くこともありえませんし、補正命令などが発行されることはありません。但し、間違えると、関係者の手前恥ずかしい思いをするでしょう。整理番号を変更したい場合には、出願番号○○について整理番号を変更したいという上申書を提出します(願書の整理番号が間違っていたことは特許庁には確かめようがありませんし、そのような証拠があったとしても照合するのが手間になるので、手続補正書ではないそうです。)。

以上のように、整理番号は願書の必須項目ですが、出願の後の手続書類(例えば意見書、手続補正書)では、必須項目ではありません。というか、意見書、手続補正書等の施行規則の様式には、【整理番号】は書いてありません。後の手続書類で【整理番号】を記載するのは、出願人側の便宜のためであり、特許庁にとってはどうでもよいことです。

拒絶理由通知書、特許査定などには整理番号が記載されますが、それは特許庁のサービスと思われます。どういうわけかPCTの国内移行出願の拒絶理由通知書、特許査定などには整理番号が記載されません(出願人が在外者でも在内者でも)。

【提出日】
施行規則の様式に(【提出日】)と記載され、()でくくられています。つまり願書の必須項目ではなく、書いても書かなくてもよい任意項目です。平成8年の法改正で、「提出の年月日」は願書を作成する際に出願人がその提出の年月日を確定できないこと及び出願の年月日を認定するのは特許庁であること等の趣旨により、必須項目から任意項目に格下げされました。提出が郵送なら特許法第19条に規定されている通りに出願の年月日が確定しますし、宅配便による場合には特許庁が受け取った日時が出願の提出日時となります。インターネット出願なら、特許庁のサーバへの記録完了時刻が出願の提出日時となります(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律第3条第2項)。

とはいえ、記載されていればそれなりに便利なので、この欄を記載することは多いと思います。提出日が間違っている場合(パソコンの日付と一致しない場合)には、出願ソフトで警告がされます。

【あて先】
「特許庁長官 殿」宛というだけの一見どうでもよい内容ですが、特許法第36条第1項に「願書を特許庁長官に提出しなければならない。」と記載されているが故に願書の必須項目にされています。長官ご本人がご覧になることはまずないと思います(多分)。

【国際特許分類】
施行規則の様式に(【国際特許分類】)と記載され、()でくくられています。つまり願書の必須項目ではなく、書いても書かなくてもよい任意項目です。

願書にIPC記号を記載することを推奨する趣旨は、「出願人のIPCに対する理解を深めること、的確なIPC調査を可能とすること等を目的としている。」だそうです(参考文献:”国際特許分類 : IPC第8版(2006) : 平成19年度知的財産権制度説明会(実務者向け)テキスト”、特許庁、平成19年)。要するに、IPCに慣れ親しんでほしいので願書になるべく書いてほしいそうです。本音は発明協会(現発明推進協会)から発行されている国際特許分類表の本を買ってほしいからじゃないかと邪推したくなります。

一方、特許庁は、出願人(または代理人)が記載したIPCを当てにはしていません。通常、公開公報にはいくつもIPCが記載されていますが、多くの場合これらは出願人(または代理人)が願書に記載したものではありません。特許庁の専門職員が付けたIPCが公開公報に記載されます。出願人(または代理人)が記載したIPCは、参考程度にはするかもしれませんが定かではありません。おそらく無視されるでしょう。

願書上、複数のIPCを記載することが許容されています。しかし、複数記載したからといって採用されるとは限りませんし、特許庁の労力も軽減されません。

出願人(または代理人)が間違ったIPCを記載しても、特許庁の専門職員が自分で正しいと考えたIPCを付けます。出願人(または代理人)が記載した願書のIPCが間違っている場合には補正ができます。法律上、これを制限する規定はありませんから。しかし、特許庁にとっては迷惑なだけだそうです。

面倒なら省略してもよい項目ですが、必須項目だと誤解している人が多くいます。昭和55年にIPCを日本が採用して以来、一度も必須項目になったことはありません。代理人は、IPCの記載がないと国内の出願人に変に思われるかもしれないと考えて記載していることが多いようです。

【選任した代理人】
複数の代理人が出願の代理をする場合に、筆頭代理人は【代理人】、残りの代理人は【選任した代理人】と表示することがよくあります。以下の通りです。

【代理人】
【識別番号】    012345677
【弁理士】
【氏名又は名称】  XX XX
【選任した代理人】
【識別番号】    012345678
【弁理士】
【氏名又は名称】  YY YY
【選任した代理人】
【識別番号】    012345679
【弁理士】
【氏名又は名称】  ZZ ZZ

なまじ法律の知識があると、選任した代理人とは復代理人のことと誤解されるかもしれませんが、違います。【選任した代理人】の欄は、復代理人ではなく代理人の選任の届けの代わりに相当します。

【選任した代理人】は電子出願に特有の事情があるために設けられている記載事項です。以下の通り、【選任した代理人】を使わずに複数の【代理人】の欄を並べてもよいのです。

【代理人】
【識別番号】    012345677
【弁理士】
【氏名又は名称】  XX XX
【代理人】
【識別番号】    012345678
【弁理士】
【氏名又は名称】  YY YY
【代理人】
【識別番号】    012345679
【弁理士】
【氏名又は名称】  ZZ ZZ

しかし、この場合、問題になるのは代理人の代理の意思(簡単に言えばハンコ)です。紙で出願を提出する場合には、複数の代理人のそれぞれに印鑑を押せばよいです。電子出願の場合には、印鑑に代わるのは、電子証明書を使ってログインすることができたという事実です。しかし、一回の出願のために、ログインできるのは一人の【代理人】だけです。そこで、複数の【代理人】の欄を並べて出願してしまった場合には、出願手続のためにログインしていない残りの【代理人】は、代理の意思を表明する「手続補足書」というものを送信しなければなりません。「手続補足書」の内容は、「本件手続をしたことに相違ありません。」というようなものです。これで一応、代理人全員の代理の意思(要するにハンコ)が特許庁で確認できるということになります。

根拠条文は、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律施行規則の第21条第1項です。

電子情報処理組織を使用して一の特定手続(国際出願その他これに係る手続を除く。)を行う者(代理人により特定手続を行う場合にあっては、その者の代理人)が二人以上あるときは、これらの者のうち第十条の二第一項に規定する入力を行う者以外の者は、当該入力の後三日以内に、当該特定手続を行った旨を特許庁に申し出なければならない。

以上のように、複数の【代理人】の欄を並べて出願する場合には、出願するたびに「手続補足書」を出さなければならず大変です。たぶん、特許庁でもチェックの処理が増えて大変なはずです。

【選任した代理人】の欄を使うと、面倒な「手続補足書」を出す必要はありません。法律的な根拠をいうと、下記の通りです。

工業所有権に関する手続等の特例に関する法律施行規則の様式第9備考19には、”代理人の選任の届出を出願と同時にするときは、「【代理人】」の欄の次に「【選任した代理人】」の欄を設けて、選任した代理人の「【識別番号】」、「【住所又は居所】」及び「【氏名又は名称】」を記録する。”と記載されています。つまり、【選任した代理人】の欄は、「代理人の選任の届出」の代わりです。【代理人】の行為は出願人の行為ですから、出願人がほかの代理人を選任したという体裁をとることで、代理権は【選任した代理人】にも与えられたという形をとっています。

規則の制約のつじつまを合わせるためによく頭をひねったものだと感心しますが、もう少し分かりやすく規則を制定できたのではないかとも思います。例えば筆頭の代理人が手続した場合に、残りの代理人の代理の意思を推定するといった規定を作れば済んだのではないでしょうか。PCTの国際出願の場合には、複数の代理人がいても、願書の記名押印の欄には1人が押印(デジタル署名)すれば済みます。これは、特許協力条約に基づく規則26.2の2(2人以上の出願人がある場合には、国際出願が少なくとも出願人のうちの1人により署名されているときは、第14条(1)(a)(i)の規定の適用上、十分なものとする。)と規則2.1(「出願人」というときは、出願人の代理人その他の代表者をもいうものとする。)を根拠とするそうであり、実にシンプルです。

【先の出願に基づく優先権主張】
国内優先権を主張する場合に基礎出願の【出願番号】と【出願日】を記載します。国内優先権を主張する出願から分割出願をする場合には、同様に基礎出願を記載する必要がありましたが、平成12年1月1日以降の出願から分割出願する場合には、この欄がなくても、その分割出願に国内優先権が効くことになりました(平成11年改正特許法第44条第4項)。但し、従前通りに、この欄を設けてもよく、その方が分かりやすいという考え方もあります。

【パリ条約による優先権等の主張】
パリ条約等の優先権を主張する場合に基礎出願の【国名】と【出願日】と【出願番号】を記載します。優先権を主張する出願から分割出願をする場合には、同様に基礎出願を記載する必要がありましたが、平成12年1月1日以降の出願から分割出願する場合には、この欄がなくても、その分割出願に優先権が効くことになりました(平成11年改正特許法第44条第4項)。但し、従前通りに、この欄を設けてもよく、その方が分かりやすいという考え方もあります。

日本国特許庁に所定国からの優先権証明書のデータの電子的交換を行ってもらうには、この欄に、【出願の区分】と【アクセスコード】と【優先権証明書提供国(機関)】を記載します。

最近、各国間の優先権証明書のデータの電子的交換が盛んになったのはよいことですが、基礎出願の国がどこなのか、電子的交換をどうやって日本国特許庁にやってもらうのかによって、必要な手続の種類が異なります。願書の記載のパターンも異なります。代理人側にとっては負担が増えてゆく一方です。

【包括委任状番号】
【提出物件の目録】の細目として、【包括委任状番号】を記載することができます。ある出願人から「包括委任状」をもらった弁理士が特許庁にそれを提出すると、「包括委任状番号」が発行されます。それ以降、その弁理士がその出願人の手続をする場合には、提出する書類に「包括委任状番号」を書けば、包括委任状を添付したのと同様に扱われます。

特許庁は【包括委任状番号】を願書に記載してほしくないようです。というのも、出願にあたって委任状の提出は義務ではなくなっており、【包括委任状番号】が願書に記載されてしまうと、それが正しい番号か、出願人が合っているか、代理人が合っているかチェックしなければならないからです。

といっても、代理人の立場からいえば、国内優先権主張出願とか拒絶査定不服審判の請求とか、代理権を証明しなければならない場面がありうるから、あらかじめ出願時に一律に【包括委任状番号】を願書に記載したいのが本音です。

▲ ▼(置き換え記号)
願書の人名(発明者、出願人、代理人の氏名)に「▲高▼木」とか「小▲柳▼」といったように、▲▼の記号が使われていることがあります。特許事務所に入れば真っ先に習うことですが、特許庁のコンピュータシステムの都合上、電子出願では使用できる文字は決まっています。御名前の文字が電子出願で使用できない場合には、似た文字を▲▼で挟んで代用します。上の最初の例は、本当の名字が「高木」ではなく、「高に似た電子出願では使えない字+木」であること(多分、はしごだか)を示しています。読む方としては、▲▼で挟んだ文字が本来の字ではないことと、電子出願では使えない字であることは理解できます。しかし、困ったことに、よく似た異体字候補が複数ある場合には、▲▼で挟まれた文字から本来の文字が特定できるとは限りません。例えば、「渡邊」「渡邉」は▲▼を使わなくてもOKですが、邊と邉の異体字の場合には「渡▲邊▼」「渡▲邉▼」で表示します。しかし、邊と邉の異体字はたくさんあるそうですので、本当の字までは分かりようがありません。ご本人も自分の名前が▲▼で表示されて嬉しいかといったら、そんなことはないでしょう。